「あんたって本当によく出来た弟だと思うわ」
彼女はほんのり赤い顔でほほえんだ。
あたたかいココア
アイスは美味しい。
チョコレートに抹茶、大納言あずきにチョコミントなどなど数多くの味があるが
やっぱり一番好きなのはバニラだ。
最近増えてきた仕事のおかげでアイスを毎日買えるようになったが
やっぱり値が張るハーゲンダッツやレディボーデンは手が出せないでいた。
その理由?もちろん誘惑に負けて一度でも手を出せば絶対にやみつきになるからだ。
仕事が増えてきたとはいえまたいつ前の状態にもど・・・・・・いやなんでもない。
だがしかし。
今日はなんとマスターが、あのマスターがくれたんだ。
何をだって?もちろん決まっているだろう。
ハーゲンダッツ、ハーゲンダッツを俺にくれたんだ!
程よく冷えたアイスが舌先でとろける・・・想像するだけでよだれが・・・。
おっと、失礼。
そう、今まさに俺は至福の時間満喫する
はずだったんだ。
ただ今持っているのはハーゲンダッツと専用のスプーンではなく
あったかい、甘さ控えめのココア。
・・・・・・なんで見つけちゃったんだリンレン。
「バカイト。今までのパターンを考えれば食べられるって事はわかんでしょ」
ワンカップ片手に呆れた顔をしながらめーちゃんが俺の傷をえぐる。
「ううう。あの時は他に仕事が入っていて急いでいて・・・うぅ。」
そう、そうなのだ!いつもだったらそんなへまはしない!
絶対に俺専用の隠し冷凍庫に入れておくのに・・・。
「・・・まぁ高級アイスを食べられた上にあんな事言われちゃったらねぇ」
・・・”カイト兄が縦だけでなく横にも伸びないように”ってのがリンの言い分だっけ。
そういえばレンも隣でうなずいていたよな。
俺たちはVOCALOID。
つまり姿形は人間に似ているとはいえ、太ったりするはずはないんだが。
くっ。思い出すだけでも悔しい。
俺のハーゲンダッツよ!
「二人のイタズラには同情するけど、たまにはアイスから離れるのもいいんじゃないかしら」
めーちゃんは苦笑してこちらをみる。
そんな彼女を軽く睨み付けて、俺は手元のココアを一口すする。
ちなみに手元にあるココアはめーちゃんが淹れてくれたもの。
めーちゃんがココアをつくるときは大概特別な時だ。
例えば風邪を引いたときや、ひどく落ち込んでいるときなど美味しいココアをつくって持ってきてくれる。
そのココアには不思議な効果があって、一口飲めば心がほっこりしてきて不思議と安心できるのだ。
でもあのハーゲンダッツを食べ損ねたという衝撃は、特別なココアでも癒せないらしい。
「まったくそんな顔すんじゃないの」
「だってー」
俺はふてくされながらココアを一口含む。
「あんたねぇ・・・」
大人気ないという自覚はある。
でもこんな姿を見せられるのはめーちゃんの前だけ、だと思う。
「でも、今日のあんたの姿は立派だったと思うわよ」
コトリ、と彼女が手に持っていたワンカップを置く。
「最終的には許しちゃうんだもの。それって中々できない事だと思う」
めーちゃんが顔を伏せるとまつげが長い事がよくわかる。
あと、アルコールのせいか頬がほんのり赤く上気していることも。
そして
「あんたって本当によく出来た弟だと思うわ」
その時に浮かんだはにかんだような笑顔はほんとに綺麗で。
めったに見れないめーちゃんの笑顔を見られた事を誇らしく思いながらも
一方で何故かもやもやとした感情があって。
「あっ。この場合お兄ちゃんというべきかしら?」
何故か素直に喜べなくて。
めーちゃんのその琥珀色の瞳を直視出来きずに視線を逸らす。
そんな様子を恥ずかしがっていると勘違いしたのか、照れちゃってーとかなんとか言って笑っている。
この得体の知れない感覚はなんだろうか。
俺はずいぶん温くなった魔法のココアを一口飲んだ。
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